換気・脱臭・照明・音

人間の五感に合わせたトイレづくりを


トイレでは、五感と深い関わりをもつ臭いや照明、音などの問題があります。たとえば臭いへの対策として十分な換気、脱臭方法を設計当初から検討しておく必要があります。また照明や採光もトイレの印象を左右する大きな要素です。

ブース内には3ヵ所の換気装置が必要。意外に気づかない換気口の詰まりに要注意。

トイレの第一印象は“臭い”で決まるといっても過言ではありません。入った瞬間、あの鼻にツンとくるアンモニア臭が漂っていたり、ブースの中に排泄物の臭いが残っていたりするようでは、いくらキレイにデザインされたトイレもイメージが台無しになってしまいます。それだけに臭気対策は管理上の重要なポイントだといえます。同じ排泄物でも尿と便とは臭いの成分が全く異なります。尿の臭いの99%はアンモニアで、排泄直後はほとんど無臭。小便器コーナーのところで触れたように、化学反応によって尿石になるとイヤな臭いを発します。ですから尿石をためないように清掃をこまめにやればアンモニアの臭いはほとんど発生しないわけです。ところが問題は排便の臭い。スカトールと呼ばれる有機物質が臭いの正体ですが、これは空気より重いため下に流れる性質があります。したがって排泄直後の臭いは、便器内か便器周辺の床から20~30cm位のところで換気するのが効果的。天井からだけの換気は、スカトールをわざわざ鼻の位置を通って上に吸い上げることになり、かえって臭いを拡散させてしまいます。ただしトイレ内の臭いは排泄物の臭いだけではなく体臭や髪の毛の臭いなどもあるので、換気装置は上部と下部、便器内と、ひとつのブースに3カ所はほしいものです。せっかく換気口が付いているのに、ホコリが詰まってほとんど機能していない。トイレの実態調査をしていると、こんなケースがしばしばあります。あまり知られていないことですが、トイレの中は意外にホコリが多い場所。トイレットペーパーやティッシュの紙ボコリや衣服の毛ボコリが換気口をびっしりおおっている場合も少なくありません。換気口は、いわばトイレ清掃の死角。目につかない部分だけに後まわしにされがちですが、月に1度程度の定期的な清掃が必要です。
足元に換気口がある男子トイレ。 中部電力のショールーム。 (設計・Photo: 上, 左下ともに設計事務所ゴンドラ)
天井、床、 便器の3カ所の換気装置がある中部電力のショールーム。(Photo:設計事務所ゴンドラ)
トイレの換気口には、ペーパーの紙ホコリや衣服の毛ホコリが詰まっている。

臭わないうちに、臭いを退治。ニーズが高い脱臭トイレをオフィスにも。

最近では、排泄物の臭いを便器内で直接脱臭する商品も開発されています。脱臭の方法はさまざまですが、代表的なものはオゾン脱臭と排気脱臭。前者は便器内の臭気をファンで吸引してオゾンの化学作用で分解してしまうもの。後者は同じファンで吸引した臭気を排水管へ排出してしまう方法です。ある衛生機器メーカーの調査によると「オフィスのトイレに望むもの」の質問に最も多かった答えは「臭いを消すことができるトイレ」だったとか。公共トイレと違い、オフィスではとかく他人の目が気になるだけに、脱臭トイレへのニーズは高いようです。

顔色が不自然に見える照明は女性に不評。大きな窓や天窓で自然光を取り込む工夫を。

一般的にトイレは明るいほうがきれいに使われるといいます。明るければ汚れやゴミが目立つので掃除も行き届き、利用者もその分気を使って用を足すからです。 でも、ただ明るければいいというものでもありません。とくに女性に評判が悪いのが、蛍光灯の光。「顔色が異様に悪く見える」「顔色が不自然に見えるので、お化粧の仕上がりの感じがわからない」という声をよく耳にします。したがってトイレの照明は、できる限り自然光に近い色のものが理想的です。天井の直接照明と鏡の近くの間接照明を使い分けるのも効果があります。あるデパートの化粧コーナーでは鏡の上にあるスポット照明に調光装置を設置。明るさを手元で調節できるようにしています。明るさと同時に、照明の位置にも要注意。鏡の位置との関係を考え、顔に影ができないような配慮も必要です。照明ばかりに頼らずに、自然光をもっと取り入れることも大切です。以前はトイレの窓は小さいのがあたりまえのように思われていましたが、最近は大きな窓やトップライトを積極的に取り入れるケースも増えてきました。自然光にあふれ、眺めの良いト イレは、気分転換やリフレッシュの場としての役割も十分果たすものになるはずです。
トイレコーナーの奥に自然光を取り入れた中部電力ショールーム。 (設計・Photo: 設計事務所ゴンドラ)
昼はトップサイドライト、夜は照明の光を取り入れた方圓館のトイレ。 (設計: 方圓館)

お国柄の違いがドアや音の意識にも表われる。どうするかは今後の課題。

トイレ内の音にはいろいろありますが、一番気になるのは排泄音。とくに女性は自分の排泄音を他人に聞かれたくないため「音消し用水流し」を行うことが多く、節水上問題になっています。そこで登場したのが、水が流れるような擬音で排泄音を消す装置。しかし、あの耳ざわりな音は、一般的にあまり評判が良くありません。ある外国人の友人によると日本のトイレでイヤなことは「芳香剤の臭いとあの擬音」ということですから、不快に感じている人は多いようです。音を外に漏らさないためには床から天井まで仕切りを伸ばして密閉度の高いブースにする方法もあります。しかし、これは、気密性はよいのですが、換気や照明をブースごとにつけなければならない、下があいていないので掃除がしづらいといった不都合も生じます。 実際、排泄音をそれほど気にするのは日本人に特有のことのようです。欧米人、とくにアメリカ人はそのあたりは実におおらか。空港やホテルのトイレでも、女性が隣のブースに入った友人とおしゃべりしながら用をたしている光景をよく見かけます。 こうしたお国柄はトイレのドアにも表れていて、たとえばドイツでは上から下までアキのない背の高いドア。イタリアでは上下が少しあいて、アメリカになるとかなり大きくあきます。日本の場合は、上が広くあき、下が床からわずかに立ち上ったスタイル。いわばイタリアとアメリカの中間的位置づけです。 習慣や国民性の違いがあるため一概には言えませんが、私自身は不快な擬音でごまかすよりは自然の放尿の音のほうがずっといいと思っています。 このほか、トイレには、ペーパーを回したり切ったりする音、便座を下ろす音など、気になる音がまだまだあります。最近では静かに便座が閉まる便器も開発されているので、プライバシーを重視するオフィスでは、こうした機器の導入も検討されてはいかがでしょうか。
左: ドアの上下が開いているアメリカの病院のトイレ。 中左: ドアの下が少しあいているミラノの空港のトイレ。 中右: カラフルで美しいロンドンの空港のトイレ。 右:海外では鏡のデザインが多種多様。 BATIMAT見本市(パリ)
関連記事