災害時のトイレ

災害時のトイレ対策とメンテナンス


阪神大震災でのトイレ・ボランティアの経験を生かし、今回、「災害時トイレメンテナンスマニュアル」をまとめました。備蓄計画や処理方法のシステムづくりに加えて、常日頃のメンテナンスも重要なポイントです。
移動式水洗トイレ車は車体下に洗浄水タンクと汚物タンクを備えている。非常用やイベントに使える。(株)ハーベスト
1日約1000回分の屎尿処理を行う。焼却灰は専用紙パックで燃えるゴミとして廃棄。 ボディの左右に、大便器と小便器各5基搭載し、水洗トイレとして使用する。(いすず自動車(株))
阪神・淡路大震災でのトイレ問題を教訓として震災時のトイレ応急対応をいかに行うか、とりわけ高齢者、障害者のトイレ対策をどうするか、あるいは、災害時を想定したトイレ製品の備蓄、施設の確保と訓練、メンテナンス方法をどうするかなどについて斬新な提言や具体的なマニュアルを数多く示しています。(財)日本消防設備安全センター

水に頼りすぎた都市のトイレ

トイレで一番問題になったのは、断水によってトイレが使えなかったこと。さらに水道が復旧しても、新たな下水道の問題が浮上しました。震災1か月近く、わずかな水とともに流されていた汚物は下水管の中で凝縮し、あちこちで詰まっていたのでしょう。一気に大量の水が流された直後、マンホールが溢れたり、便器から汚物が逆流したり、また破損した下水管からの漏水によって悪臭が発生したという話も聞きました。神戸市当局では、下水管の破損、亀裂状況の調査を行い修理にかかりましたが、六甲山の岩盤の硬さと地震の縦揺れが幸いしてか、下水管にリング状の破損はあるものの、被害は予想ほど深刻ではなかったそうです。しかしこれを教訓に、水に頼りすぎていた都市生活や、開発中のさまざまなトイレの処理方法を見直すとともに、下水道問題も含めてライフラインのあり方を、地域単位で検討する必要があるのではないでしょうか。

これからの災害トイレのあり方

被災地では混乱の状況のなかにあって苦肉の策ながら、知恵を感じさせる手づくりトイレに出会いました。公園では、木陰を利用して、倒壊した家屋を材料に囲いをつくり、中に穴を掘ってバケツやドラム缶を埋めた簡易トイレを見かけました。またマンホールのフタを取り、足場の板を渡して用を足し、直接下水道に流してしまうという手っ取り早い方法のトイレもありました。災害時にはあれこれ複雑な対応が必要なトイレよりも、被災者に精神的にも肉体的にも負担の少ない簡便なトイレが有効です。たとえば、既設のトイレブースを利用して折りたたみ式トイレを設置すれば、用足し空間としては十分。中にビニールの処理袋を入れ、用足し後に凝固剤で固めて袋ごと捨てる方法のものもあり、その後、阪神大震災のトイレパニックの情報から、各方面で災害時のトイレ対策が研究されています。その一つとして、消防庁では「震災時のトイレ対策のあり方に関する調査研究委員会」を発足させ、平成9年3月に「震災時のトイレ対策・あり方とマニュアル」(発行/財団法人日本消防設備安全センター)をまとめました。
上)イラスト:いすず自動車(株)
下)トイレカーのトイレ内部。ドアは折りたたみ式で、各ブースの中に手洗いが付いたコンパクトな設計になっている。
既設トイレにフタをして簡易トイレをセット。一人使用ごとに凝固剤で固めて処理し、袋を交換するので清潔。(株)総合サービス
折りたたみ椅子は簡単に組み立てられ、洋式トイレになるのでお年寄りにも使いやすい。たためば場所をとらず備蓄するのにも便利。

災害トイレのメンテナンスマニュアル

私が委員会のメンバーとしてもっとも力を入れたのは、災害時トイレを清潔で衛生的に保つための「災害時トイレメンテナンスマニュアル」の項でした。これまでこのようなメンテナンスの方法についてはお手本とするものが無く、私は阪神大震災避難所でのトイレ・ボランティアの経験を生かし、備蓄計画や使い方の訓練、清掃方法や処理方法のシステムづくりなどをマニュアルに組み込みました。 パニック状態のときにこそ、便槽均し棒やゴム手袋、長靴、十の手、バケツ、じょうろ等、必要な道具を揃えて置く必要があります。また、災害直後3日後1週間後、1か月後とライフラインの被害状況や復旧状態の変化に応じて対応の方法も変わってきますが、対応は的を得ないとトイレパニックが起きてしまいます。さらに、避難所として小学校が多く使われましたが、1000人もの人が避難所で暮らす場合、普段の尿石処理や配管のメンテナンスが行き届いていないトイレではそれが詰まりや溢れの原因になりました。日常清掃、特別清掃、定期点検などを通常から実施しておくことも、災害トイレ対策の大きなポイントであることを再確認しました。
被災地でみかけたアイディア手づくりトイレ。囲いは倒壊家屋を利用して。(日本トイレ協会「阪神大震災トイレ支援のための調査ボランティア」より。)
ドラム缶を横にして上部に穴をあけ便槽がわりに。意外にしっかりした作り。(日本トイレ協会「阪神大震災トイレ支援のための調査ボランティア」より。)
地面に穴を掘ってバケツを埋めたトイレ。マンホールのフタを取り両脇に足場の板を渡し、直接下水道に用を足す方法もあった。(日本トイレ協会「阪神大震災トイレ支援のための調査ボランティア」より。) 
地面に穴を掘ってバケツを埋めたトイレ。(日本トイレ協会「阪神大震災トイレ支援のための調査ボランティア」より。)
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